仕事がデキる人は何が違うのか。ビジネス書を年間240冊読む豊留菜瑞さんは「質へのこだわりから離れて『量』をこなすことに振り切ってみるといい。完璧への執着が、かえって仕事のパフォーマンスを下げることは、ハーバード大学の研究でも証明されている」という――。

※本稿は、豊留菜瑞『忙しさ幻想』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

「質か量か」成長に必要なのはどっち

先日、とある映像クリエイターから印象深い言葉を聞きました。

「僕は以前、1本の動画に3カ月の時間をかけていました。完璧な作品を作りたくて。でも、それは間違いだったんです。

3カ月で1本作るより、1カ月で3本作るほうが、圧倒的に成長が早かった。

量は、必ず質に転化する。その気づきが、僕の人生を変えました」

実は、この「質よりも量」という発想には、科学的な裏づけがあります。

認知科学者のアンダース・エリクソンは、世界的な演奏家たちの練習方法を研究し、興味深い事実を発見しました。

一流のバイオリニストたちは必ずしも「完璧な演奏」を目指して練習していたわけではありませんでした。

むしろ、彼らは新しい曲に挑戦し、たくさんの間違いを重ね、失敗を恐れずに演奏を繰り返しました。そして驚くべきことに、「上手くなろう」と意識せずに数をこなした練習のほうが、質を求めて慎重に進めた練習よりも、はるかに大きな成長を生んでいたのです。

美容師に「数」を競わせた結果…

この発見は、私たち全ての仕事に通じる真実を示唆しています。

株式会社アースホールディングスの取締役、山下誠司さんは言います。

「私たちは『質』という言葉に縛られすぎています。

質を高めようとするあまり、手が止まってしまう。アイデアが浮かばないと机に向かって考え込む。でも、それは実は最も非効率な時間の使い方なんです」

彼は、自身のサロンで画期的な方法を導入しました。美容師たちに「1日で作れるヘアスタイルの数」を競わせたのです。

美容室
写真=iStock.com/Liudmila Chernetska
※写真はイメージです

最初は、「雑な仕事になってしまう」「お客様に失礼ではないか」と、戸惑いの声が上がりました。

しかし、実際に始めてみると、驚くべき変化が起きました。

スピードを意識することで、無駄な動きが自然と省かれ、たくさんの経験を積むことで、かえって技術が洗練されていったのです。