ハリウッドとCG映画合作した唯一の日本CGアニメ会社MARZA。ソニック1000億円興行はどうやって実現したのか 中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第116回

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
/

2024年末『Sonic the Hedgehog 3』は制作費1.2億ドル(約200億円)という超大型ハリウッド映画ながら、興行収入4.8 億ドル超え(約700億円)。同レベルの製作費で13億ドルを超えた日本IP最大の興行収入となった『The Super Mario Bros. Movie』に次ぐ史上2位の成果を上げた(実写映画としては史上1位)。任天堂IPとセガIP、ゲーム業界で30年前に世界を席巻した両雄が、いまや世界の映像業界であらたなIP覇権戦を繰り広げる時代となったが、Sonicでは一点違いがある。それは映画出資も映画製作もセガ自身が参画しており、「日本企業が参画して世界映像市場を獲った作品である」という点だ。日本企業がハリウッドメジャーと契約し、事業に参画するにはどんな人材・経験値が必要なのかを体感したという点ではすべての日本企業にとって興味深々な案件だろう。今回制作側で関与したMARZAの視点から「日本IPのハリウッド映画化」についてインタビューを行った。

 

【主な内容】
ブルドーザーのようなハリウッド映画。出資・IP・制作で関わる唯一無二の日本企業
足掛け8年のソニック映画、キャラデザ炎上で作り直し。図らずも再発見した世界のソニックファン達
過酷なCG市場を“生き残った"MARZAとプロデューサー中原氏の投入が転機となった「1億人を相手にするハリウッド映画」との交渉
美大卒、イスラエルベンチャー、コンテンツファンドを経てMARZAに転職した異色のキャリア
CG・VFXが主流となるグローバル3Dアニメーションか、国内で輸出力があるセルルックの2Dアニメか

  

■ブルドーザーのようなハリウッド映画。出資・IP・制作で関わる唯一無二の日本企業

――:自己紹介からお願いします。

マーザ・アニメーションプラネット(以下、MARZA)取締役常務執行役員の内田治宏(うちだ はるひろ)と申します。

――:2024年末からはじまっている『Sonic the Hedgehog 3』は大成功でしたね。約5億ドルと、日本IPとしては12.6億ドルの『The Super Mario Bros. Movie』に次ぐハリウッド化成功事例になりましたね。

ありがとうございます!中山さんにはこうして日経で記事にもしていただいて(ソニックの新作映画、米国でロケットスタート“日本より売れる"理由)。ソニックは日本生まれですが、映画は北米では神キャラに近い熱狂の一方で日本では中々そこまでいかずそこが残念です笑。このParamountのシリーズは1(2020)も2(2022)も3(2024)も、SEGAが出資して、MARZAが制作協力しているんですが、「ハリウッドメジャースタジオの世界配給映画に日本企業が出資もして製作もしている事例」って当時自分が知る限りでは史上初めてだと思います。

――:なるほど!当時はポケモンもマリオもIPとしてのライセンスアウト、あとはリメイクなどが基本で、たしかに出資して一緒にプレーヤーになっている事例は無いですね(※)。私自身、MARZAさんが制作にも直接かかわっているというのは、知らなかったです笑.(※その後『The Super Mario Bros. Movie』で任天堂が出資)

2013年ごろからの交渉過程にも初期は関わっていましたし、MARZAが制作しているシーンも結構あるんですよ。例えばシリーズ1では冒頭の故郷の星のシーンとか、ロングクロ―(ソニックの母のような存在のフクロウ)が登場しているシーンとかフルCG部分や一部VFXパートはMARZAが手掛けているのですが、2,3になるにしたがって実写部分が増えてきたので制作している尺自体は短くなってきましたが。

 

MARZAが作成したシリーズ1作目" Sonic The Hedgehog"のCGパート
©PARAMOUNT PICTURES AND SEGA OF AMERICA, INC.

 

――:MARZAはどのくらいの規模の会社なんですか?

現在約170名のスタッフがいて、ポストプロダクション以外全部できる希少なスタジオです。ディベロップメント(ストーリー、世界観、キービジュアル)とプリプロダクション(ストーリーボードやレイアウトから、モデルやシェーディングなどのアセット制作)、プロダクション(アニメーションやエフェクト、ライティング、コンポジット)と、CGアニメって工程がいっぱいあるんですが、それが全部内製できるCGアニメスタジオって今の日本だと数社しかいないと思います。

海外からのアーティストも多く、外国出身スタッフも20~30名といった単位でいます。以前出身者でカテゴリーしたら18か国にもなりました。実際に入社したい、という応募者も最近は日本より海外からのほうが多いくらいです。

――:そんなに海外シフトしているんですね・・・!?以前SAFEHOUSEもインタビューして、ゲームエンジンのUnrealで『ガンダム復讐のレクイエム』を作った話を伺いました 。そちらは社長さんがオーストラリア育ちだった背景があって海外中心のプロダクションになりましたが、MARZAさんの場合はどうやってそんな体制を敷けるようになったのでしょうか?

ここでMARZAの歴史を簡単にご説明しますと、元々はセガ社内にCG映像制作部門としてVE研究開発部と言う部署が発足したのがスタートになります。2009年に分社化し2010年に現在の社名になりました。「最高のアニメーションを世界中の子供たちに見せたい」とう理念のもと、映像分野からIPを作る、CG技術を使って面白いことをする、の2軸で活動しています。作品でいうと『SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK』(2013)、『ルパン三世 THE FIRST』(2019)を始めとした長編映画から『こねこのチー』(2016~2024)といったTVアニメシリーズまで手掛けています。

現在流行しているバーチャルライヴの分野でも2010年代から『初音ミク』関連(現、マジカルミライ)のCGライブ映像(2013~)は最初期から担当していますし、それ以外では『あんさんぶるスターズ』のCGライブ映像(2017~)も制作しています。

ゲームエンジンを利用した映像制作に関してもMARZAは早くから手掛けていまして『The Gift』(2016)『The Peak』(2019)『XPICE』(2020)を始めとして、複数の国際映画祭にて受賞歴もあります。スタートはUnityが多かったですが現在はUnrealのリクエストが多いですね。

他のスタジオさんも手掛ける領域が広くなってきている傾向があるのですがMARZAはゲーム会社が出自と言うこともあって設立時からストーリー性があるものとインタラクティブなもの双方を手掛けるユニークなスタジオだと思います。

――:今回でParamount映画は3作目、ハリウッドと合作で作るという経験はいかがでしたか?

いや、もうこれは我々も驚かされましたけど、制作してOKが出てもその後バッサリ斬り落とすんですよね。色々なシーンを作りましたがあれはどこに行ったんだろう?と言う感じです。

――:意外でした。あれだけの超予算の映画だから事前に脚本びっちり作るのかと。

もちろん脚本はしっかり作りこまれているのですが、途中でガンガン変えるんですよ。本制作の過程自体がそのまま壮大な試行錯誤で。僕らの感覚でいうと「せっかく作ったんだからこの部分くらいは再活用したら・・」と思うのですが、そこもバッサリ。途中まで作っていた悪役とか、半年たったらいつのまにか消えていて。あれ、あの作っていた悪役どこいったの!?と思ったら脚本からも消えていたり。そういう意味では作品を良くしようという貪欲さと言うか妥協を許さない姿勢にはものすごいものがあります。

――:とにかく総量、ですね。お金がいくらあっても足りない。

プロジェクトに参加したスタッフの感想ですが、あるキャラのモデルに関しては多分1000を超えるバージョンくらい作っているのではと思わせるような感覚になるくらいとのことでした。それこそ他のスタジオと競争させているんじゃないかくらい。

シリーズ1はとにかく「カオス」。ブルドーザーのようにガンガンにつくってスクラップ&ビルド。2,3と一緒にやっていく中でこちらも慣れた部分も出てきて、見通しも立つようになってきて発注段階では「このままじゃ絶対終わらない!!」といきりたっていても、まあこのペースだったらたぶん終わっちゃうな、とか分かるようにはなってきましたとのことです笑。

――:外国人スタッフが多いのもそのためなのかもしれませんが、「ハリウッドと作る」というのは一介の日本企業のアニメーターができるものなのでしょうか?

制作に限らずだとは思いますが、異業種体験するしかないと思います。海外のVFXスタジオで働いた経験があったスタッフは、やっぱり慣れていて「シーケンスごとまるまるカット、みたいなことって結構あるんですよね」というコメントでした。

お客さんの反応をみながらバシバシ変える。公開1か月前でも変えるものは変えちゃうと。

――:じゃあハリウッドものだから単価高くて儲かる、という感じでもないんですか?

無いですね。発注のスタイル、仕様も作り方も違うから、それにアジャストするための苦労を考えると、一見額面上高い仕事でも工数がかかりまくるので、よっぽど慣れていかないと「ハリウッド案件だから儲かります」とはならないです。この辺りは他社さんも同様に苦労されているのではないかと思います。

ハリウッドメジャークラスの映画に対応していこう、と思ったらやっぱり継続して受けるようになっていかないといけないですね。

――:なんか自動車産業の海外化みたいですね。僕もマレーシアのハリウッド外注スタジオのプロセスみた経験あるんですが、完成品メーカーに付き従って部品メーカーのように頑張るんですが、すりあわせにめっちゃ苦労する。日米の大きな違いでいうとどういうところでしょう?金額以外に、日本の制作ではかなわない部分というのはありますか。

これは映像業界に関わらずだと思うのですが、「メソッド化の力」ですね。ストーリーテリングやストーリーボード関連の理論などとにかく仕組・論理化するのが上手いと思います。大学にも映像学部がありメソッドを学習すれば一定のスキルや共通の会話が出来るように訓練されている。でも日本は作業ベースで物事を教え実施スキルは職人の背中をみて学ぶ、とかじゃないですか。

他の視点からみると、集団で制作する際に、日本は言語をはじめとして作り方から共通しているものが多すぎて、暗黙の了解で一緒に走り出せるんです。でも向こうのスタジオの場合って、もう最初から言語も考え方も時差も違う人たちの集合で作る。だからこそ「明文化したルール」というのがきっちり必要なんですよね。

 

 

■足掛け8年のソニック映画、キャラデザ炎上で作り直し。図らずも再発見した世界のソニックファン達

――:そもそもソニックでいうと、2019年に出したトレーラーが「Sonic、コレジャナイ感」で大いに炎上した事件があって、一度作り直しになって2020年2月リリースでした。

・・・あれは言えない話も多いのですが、日本IPのハリウッド化をどうすべきかという議論の教科書みたいなケースでしたね

 

上段が2019年4月Ver、下段が現在の2019年11月Ver

 

※ソニック炎上事件:2016年から映画化が発表されていた中で2018年12月からポスターが少しずつ公開され、ついに2019年4月にリリースされた映像が「原作と全然違う」と大炎上、24時間で1200万再生、高評価17万に対して低評価27万。かたや2019年5月に大成功していた『名探偵ピカチュウ』と比較されて、監督のJeff Fowlerがまさかの「全部キャラクターを作り替える」というその時点で衝撃の意思決定につながる。

 

――:ああいうの、不思議ですよね。米国人って2Dを2Dのままで実写化するのが苦手で、私もゲーム作りしていたときに「油絵っぽい」というか、歯をはやしたりオッサンにしたり、“人間臭さ"を強調してしまう。日本は「そぎ落とす」が得意なのに、米国は「(ヒトに)近づける」感じで、“肉感"を強調してしまう。

これは中山さんに学者として分析してほしいくらいですよ。

――:いつごろからハリウッド映画化というのは動いていたんでしょうか?

自分がグループに入社した2009年には既に海外から色々なオファーがあったと聞いています。今のSonic映画にむけて新たな話が持ち上がったのは2014年あたり、1ができあがるまで8年間かかったことになります。

――:日本IPのハリウッド化は失敗ばかりでした。マリオ(1993)も、ドラゴンボール(2009)もストリートファイター2(2009)も、皆苦しんだところですね。そもそもSonicも決して調子よかったわけじゃないですよね?2004年にセガとサミー統合、ソニックの生みの親である中裕司氏が2006年に退職・独立、2010年代前半はグループ全体が苦しかった印象です。当時はソニックIPでゲームを出し続けることの如何すら議論されたと聞きます。

自分は2009年にこのグループに入ったので当時のことは詳しくは知らないのですが、ソニックもCGアニメは複数回リリースされています。2014年からフランスのスタジオと『ソニックブーム』、2018年には短編シリーズで『ソニックマニア アドベンチャーズ』がリリースされています。2020年Paramount版『Sonic the Hedgehog』が初めての“世界的成功"といえる成果になりました。

 

MARZAの立役者たち。左から(Production部副部長Animation Team Leader)坂本知万氏、(Creative部副部長Art Team Manager)梅田年哉氏、(取締役 常務執行役員)内田治宏氏、(Production部 課長補佐Effect Team Leader)安部清氏、(Production部 課長補佐 Character Model Team Leader) 鴻巣智氏

 

■過酷なCG市場を“生き残った"MARZAとプロデューサー中原氏の投入が転機となった「1億人を相手にするハリウッド映画」との交渉

――:日本のCG市場って2009年のマーザ分社化の時期に、ずいぶん顕在化していたんでしょうか?VFX・CGスタジオって1980~90年代にPPIやデジタルフロンティアがCGブームで立ち上がり、1997年にスクエニがハワイにホノルルスタジオ作ったけど、日本でCG流行らなくてみんな経営に苦戦していた認識です。以前PPIマレーシアにもインタビューして、2010年代前半はほぼ“救済"に近い出資あつめの状態でした 。

こちらは2014年に市場調査をした資料の市場推計なんですけど、CGでCM作っていた1995年って国内全体で10億円みたいな市場だったんですよ。「日本にはほとんどCG市場がなかった」と言える状態でした。これが2020年には10兆円になるぞ!!と意気込んではいたんですが・・・実態としては逆で2010年代前半はホントに厳しくなっていった時代でした。

 

 

――:こうしてみると2010年前後の厳しい時代を経て、2015年ごろには結構日本でも1500億円市場と巨大になってきた印象ですが。

世界数兆円に対して、日本1500億の内、パチンコ・スロットTVCMとゲームが4割で映画・ビデオ1割くらいしかない。エフェクトのような特殊技術の部分的な仕事はあっても、ストーリー性のあるシリーズ物・映画ではCGの需要がなかった。元々国内マーケットは難しいと言われてはいましたが、当時CGスタジオもみんな調子悪くて、、この時期に大手資本傘下に入ったところが多いですよね。

 

 

――:セガのほかにゲーム会社のCG映像に展開していった会社はないんですか?

そうですね、スクウェアエニックス(SQEX)社もヴィジュアルワークス(1999年設立、2021年に本社再編)を作りましたがのちに縮小。

CGと一口に言ってもアニメCGとゲームCG、VFXのCGで違うんですよね。SQEXホノルルスタジオの人材は弊社にも入社していますが長尺のCGで1本の映画を作る、ってあの時代はSQEX社以外はやってなかった。SQEX社出身者は各社に人が流れたので、彼らが築いた基礎が現在の日本CG界のベースにつながっていることは確かです。

――:なるほど、そういうなかでもMARZAは“SEGAらしさ"で攻めの姿勢があったから「ROBODOG」のように2010年代前半まではオリジナル映画などでせめて続けていた、ということですね。それが現在のハリウッド案件につながったのかもしれませんね。2013年に最初に配給権を獲得したのはSPE、そして2017年にParamountになります。

製作手法の違いも、契約・交渉手順も違いますし、本当に交渉は大変そうでした。救世主だったのが中原徹さんです。彼は 、かつてLAの大手米国法律事務所のパートナー弁護士としてエンターテイメント案件処理を専門としていました。2015年にセガサミーグループの上席執行役員として入社されましたが、映画プロジェクトが彼の担当案件のひとつでした。中原さんの投入がターニングポイントになって、制作側ではどうにもできなかった契約・交渉面が進むようになって、ようやくハリウッド映画化が実現に向かって動き出したんです。

――:でもSEGAも出資はしているわけですし、出した金額分だけ交渉しやすいのでは?

現在はそうではないですが、当時はお金=発言力ではないんですよ。正直向こうは「何も知らないやつが、なんか言ってきたな」くらいだったんじゃないかと。ほとんど意見を出してもとりあってもらえなかった。ゲームIPであるはずのソニックを映画にむけてどう調整するか、どちらを優先するかという議論になったときに、「ゲームはたかだか数十万~数百万人を相手にしている商売だろう?俺らの映画は数千万~数億人を相手にした商売。どちらに合わせるかは明白だろう」とのコメントは当時衝撃だったと聞いています。

――:そうか、情報と人脈。これがないと結局はお金出してもマウント取られて終わるんですね。これはどうやって交渉を優位に進めていったんですか?

ご本人に伺うのが一番だとは思いますが、個人的な意見としてはやはり中原さんのスキルに尽きると思います。彼自身が前述したクリエイティブナレッジで相手と対等に語れるのが大きい。これも個人的な感想ですが、ハリウッドメジャースタジオって、日本のようにビジネススキルだけで経営層にいく人って少ないんですよ。ストーリーテリングを始めとしたクリエイティブやストーリー理論を理解してクリエイティブメンバーとも対等にコミュニケーションが出来ないといけない。だからクリエイティブを論理だてて話せない人は上に行けない。中原さんはLawyerで契約やビジネスもわかる、作品も語れる交渉も出来る。

“制作"ではなく、契約や条件も入る“製作"となると我々もわからないことだらけ。交渉条件も違いすぎますし、足掛け1年以上ずーっと進まなかったものが、2015年の中原さん投入後、「劇的に変わった」と感じました。そして何よりも里見治会長、治紀社長はじめ当時の経営陣の最終決断、どれかが欠けていたら『Sonic the Hedgehog』は実現しなかったと思います。

 

SonicMovie3 The US Premiere in Los Angeles

 

■美大卒、イスラエルベンチャー、コンテンツファンドを経てMARZAに転職した異色のキャリア

――:ぜひ内田さん個人のお話も伺いたいです。どういうキャリアでここに至ったのでしょうか。

私の話まで載るんですか?笑。日本生まれ日本育ちなんですが、アメリカンスクールの保育園から小学校はインターナショナルスクール育ち。中学だけ公立なのですが、高校から海外帰国子女が多いICUHSに進学しているので英語環境は比較的身近にあったと思います。父はデザイン事務所経営、母は芸術家、だいぶ変わった家庭環境だったと思います笑。

そのまま多摩美術大学にいってから大学院は芝浦工大に進学して建築を学びました。MacもPCとして超高額だった時代に当時先輩で、CGソフト(RenderMan)を使いこなしてCG制作をする方がいて、彼にあこがれて同じようにCG制作を始めました。ちょうどバブルの最終局面である1990年前後で在学中にバブルが破綻したのもあり就職せず、そのままフリーで活動する道を選びました。

――:かなり変わったキャリアですね。どこかの企業には所属されないのですか?

在学中からいろいろな業務を受けていました。ゼネコンさんの仕事とか。当時はMacもPC98も使える人がそんなにいないものだから、十分仕事がまわったんですよね。そのまま30くらいまでやっていました。初めて会社に属したのは、32歳のときにインターナショナルスクールでの幼馴染のイスラエル人が経営するベンチャー企業に属したときですね。

――:え!?イスラエルのベンチャー企業!?

会社は日本にある日本の会社なのですが、彼は日本生まれで10歳まで日本で育ったイスラエルの方で、弁護士資格も持っていてスタートアップを複数起業したりVC活動をしていて、日本に戻ってきて日本とイスラエルをつなぐような新しいベンチャーを立ち上げようとしていたところでした。現在もその会社はあり、今の言葉で言う越境ECの走りなのですが、目の付け所が違い扱うものが高級ブランド品専門ECの立ち上げでした(当時1999年楽天等も立ち上がったばかりの時代)

在籍期間はホントに短かったのですが、今でもそうですがイスラエル=テックベンチャーのあこがれでしたし、グローバルに何かをやるというのが一番やりたかったことなので参加しました。立ち上がり時期だったのでそれこそHPデザインから始まり、運送会社にいって配送のロジスティクスの交渉等色々な経験を積ましてもらったのですが体調不良になってしまったのと、メディア系の仕事がしたいという事もあり退職しました。次に広告代理業や番組制作を行う会社に入りました。ワールドビジネスサテライトとかを作っていた会社ですね。これが本格的に映像系の仕事をし始めた始まりになります。

――:美大出身者が独立→イスラエルベンチャー→映像会社、となかなかに「極道」なキャリアですね笑。

ここ(ATPの理事長会社だった)の在籍時に「制作会社もIPをもっていないとダメだよね」という動きがあり、コンテンツファンドの運営会社をJVで作ったんです。出資者に関西電力、NTTデータ、電通がはいって。そこで初めてストラクチャードファイナンス(仕組み金融、信用リスクのコントロール技術)で知財の証券化を経験しました。銀行からもエース級の人材が担当になっていただき、非常にやりがいもあったんです。

――:2006年『フラガール』のシネカノンファンドとかですよね。でも結果としては・・・

時期尚早、でしたね。結局うまくいかなかった。アニメ/映画/テレビと業界ごとの商流調査をして、どうやってマルチメディアでビジネスを成り立たせるかを四苦八苦シミュレーションして。あのとき必死に調べていたナレッジは、今になって生きていますけど。

次も金融系にキャリアを進めようとしたんですが…最悪のタイミングでちょうどリーマンショックが起こるんですよ。転職案件がほとんど無い中で携帯メディアの会社に入り、1年で15件くらいVC投資していたんですが、在籍中に現在の会社の方と知り合う機会があり2009年にセガサミーインベストメントに入社して、その後インベストメントとMARZA が合併することになり現在に至ります。

――:それまでのキャリアとMARZAの仕事はフィットしたんですか?

お誘いをいただいたときに、これまで自分がやってきた、クリエイティブ、PC、CGをはじめとしたデジタル、IT、ファイナンスと全て網羅してそれがほぼ重なるお話でしたのでこれはチャンスと思いました。

――:それが前述のような2009~13年の「攻め」の時期、2014~の「守り」の時期にフィットしていったんですね。

 

  

■CG・VFXが主流となるグローバル3Dアニメーションか、国内で輸出力があるセルルックの2Dアニメか

――:MARZAは経営の安定性のためにほかのCG会社のように受託メインで、にはならなかったんですか?

現在受託がメインではあるのですが一方で受託だけの会社になるんだったらまず私が辞めてますね笑。MARZAは最初からIPを自分たちで生み出し、作品そのものを作れるスタジオを目指すぞというのが企業理念でした。そのスローガンに共感したから私も入社しましたしいまも黎明期から15人くらいの社員は残っているんです。彼らにとっては、自社IPに拘り続ける「魂=Faith」の可能性があるからMARZAに賭けて、残っていると思います。

――:日本ではCGアニメーションがなぜそこまで広がらなかったんですかね?「シドニアの騎士」(2014)とか。

ビジネスとクリエイティブ2つの側面があると思います。まずビジネス構造的にCGアニメはコストと収益面のバランスが取れず成立しづらかった。特に日本においてはアニメは放送ビジネスとして成立していたので余計にビジネススキームにのりづらい(北米は劇場映画で大ヒットが生まれていた)

クリエイティブの面では、日本と海外で好みが分かれる傾向があります。最近でもArcaneやSpider Verseのような欧米風スタイライズと日本の作画テイストとでは嗜好が随分違います。ただ、一方でベイマックスのような日本的な題材やテイストを取り入れた作品も興行的に成立しているので可能性はあると思います。

――:世界の潮流だけみれば2Dよりは3Dってなるはずなんですよね。でも2010年代蓋をあけてみたら、3DのCGアニメーション会社は皆貧しているなかで、逆に2Dアニメで日本流を貫いた東映アニメーションやトムスのような会社がどんどん成長してきた。

そうですよね。ただ単価の問題は現状もずっとあります。ジャパニメーションとよばれる日本アニメはCrunchyrollやNetflixなどを通じてこれまでより売れているように見えますが、正直日本にくるようなトップ3DCGのアニメに比べると制作費の桁は一つ小さいんです。(直近は倍以上の金額をかけるものがようやく生まれてきていますが)基本は2-3億円で作って、回収するというビジネスモデル自体は大きく変わってはいない。そこで収支をとる構造が成立してうまくまわっている日本の2Dアニメのビジネスを一足飛びにそれらのハリウッドの3DCGのビジネス構造にあてはめることが難しいように思います。

――:日本以外ではみんながハリウッド化していくというのは世界の潮流なんですかね?

ただ一点注意が必要なのは、ハリウッドといっても、それは言葉の総称であって実際は幅広いかと思います。皆はPIXAR 、DreamWorks、ILMなどのハリウッドメジャースタジオをイメージしてしまいますが実はアニメってボリュームゾーンは子供向けのTVシリーズなんです。クオリティもハイエンドからローエンドまでいっぱいあるのです。「なんでもハリウッドメジャークオリティ」なわけではないです。メディアやターゲットそれぞれの商いの規模に応じた制作会社の数が多い、というだけなんですね。

――:そうか、日本に届いていないクオリティのCGアニメーションの作品って星の数ほどあるわけですよね。我々は世界的成功作品ばかり見ているから・・・

CGって結局表現技術にすぎないんですよ。大事なのは「なにを表現するか」ですよね。映像ビジネスは構造的にはシンプルだと思いますし、それゆえグローバルにも展開できる作品をどれだけ生み出せるか?なのでMARZAは初期からキャラクターデザインや脚本・ストーリーといった原作づくりができる内外のスタッフ確保に拘っているんです。『こねこのチー』シリーズ(2016/2018/2024)は監督も自社でたてていますし、今年2025年5月には『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』がリリースされます。

そういう意味では、『TOY STORY』が生まれるまでのPIXARと同じ、今も自社・共同開発のIP制作はたゆまず追い続けています。

――:日本のCGスタジオとして逆に強みの部分ってどういうところにあるのでしょうか?

ハリウッドはメソッドに落とし込んで、大量の人員をそれにあわせて鋳型にはめ込むように作ります。プロジェクトの規模が相対的に大きいし、フォーマットやルール化にするのも得意だけれど、ただそれが傑作を生むための唯一の方法ではないですよね。

個人個人のナレッジやスキルの集合体、それを積み上げていくのが日本の作り方です。それが傑作となってあらわれたのが「ゴジラ-1.0」で、あれはハリウッドにはできない作り方とも聞きます。

 

SonicMovie3 The US Premiere in Los Angeles
SegaおよびSega of Americaの方々と

 

――:それにハリウッドにパイプを持つプロデューサーの育成ですよね。中原さんもですけど、私はよく『ゴジラ-1.0』プロデューサーの山田兼司さんにもその話聞きます。やっぱりハリウッドはハリウッドの“村社会"があって、あっちの人間関係の網の目に入らないと意思決定への参加権がない、と。今回もニール・モリッツのようなルートとダイレクトで話せるというのは大きかったのでは。

向こうのスタジオの経営層やプロデューサーと直にタイトルIPの話をして、タフな交渉を進めていく。そういうプロデューサーをもっと日本人から出していかないといけないですよね。

それでも「日本からアプローチしている」というのはかなり限界があります。理想は北米に拠点があり、IP・交渉・制作すべてがそろっている体制で、資金投資までしてはじめて対等に話せるかどうか、みたいなのがハリウッドですから。

※ニール・H・モリッツ(Neal H. Moritz, 1959-)、『ワイルド・スピード』シリーズ、『プリズン・ブレイク』など70作以上手掛け、合計120億ドルを超える大ヒット映像を作ってきた。

――:ありがとうございました。今後SEGAのCG映像として、MARZAとしてはどんな展開を想定していますか?

ハリウッドメジャーと対等に交渉していける希少なIPとしてのSonicがあり、プロデューサーとしてSEGA of Americaの中原さんのような存在があり、制作面でもMARZAがある。これは各社グローバル展開を勢力化しているトレンドのなかで、アドバンテージになっていると思います。

今後も自社/共同製作は続けていきますし、2027年春には『Sonic4』のリリースも控えています。次も是非参加させていただきたいですし、日本含め世界中で大ヒットする映像作品を継続的に実現出来るよう頑張ります。

 

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
企業データを見る